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第4回:業務システム化における履歴管理と作業管理の矛盾点

第4回:業務システム化における履歴管理と作業管理の矛盾点

保全管理システムを導入するにあたって問題となりやすいポイントを紹介するとともに、その問題をクリアするためにどのような仕様のシステムが望ましいのかを解説します。
2008-11-12

保全管理システムの販売・導入の際に、製品の持つ機能とユーザーの要求する仕様のギャップが問題となる場合がよくあります。 特に困難なのは、異なる情報をひとつのデータベースで管理したいという要求が発生する場合です。 例えば、ユーザーが求める要望には次のようなものがあります。

至極当たり前の様な要求ですが、このような異なる要求を一つの製品ですべてカバーするのは難しいため、これを実現するためには工夫が必要です。


図1: 一つの製品で両方の要件をシステム化することは大変である

今回のメールマガジンでは、設備の履歴管理とメンテナンスに係わる作業管理の観点から、問題点を考察し、その問題を解決するために必要となるシステム要件について解説します。

粒度の違いからくる問題点

「設備の履歴管理を行いたい」場合と「設備に対する作業を管理したい」場合とで、設備保全管理システムは、随分と変わったものになってしまいます。

設備のメンテナンス等の履歴を管理したい場合は、設備や装置、機器や部位 (保全部位や検査部位) の様に設備階層を意識して故障や故障対応、部品交換およびメンテナンスに関する情報を蓄積していきます。

これに対して、検査や工事を外部に委託または発注する場合、発注単位で作業をまとめる必要があります。この発注単位の明細が、設備階層どおりであれば問題ないのですが、殆どは異なったものになります。コストの管理を実施したい場合、さらに困ったことが発生します。例えば、「回転機一式(N台)の検査 XX円、付帯工事 YY円、出精値引き △円」で実施した作業について、各回転機の実績コストを入力したい場合、費用按分方法について何らかのルールを決めるなどしないと入力ができません。そもそも、「この様な場合、コスト情報を入力することに意味があるのか、有効活用できるのか」から検討する必要があります。下図2にその様子を示します。


図2:それぞれの管理方法における設計の例

上記の様な問題が発生する最も大きな原因のひとつに、情報の粒度の違いがあげられます。工事や作業の発注単位と履歴管理部位にギャップが存在するため問題が発生します。履歴管理に重点を置く場合と作業管理に重点を置く場合の比較を、以下に示します。

台帳/他 作業管理 履歴管理
設備台帳
  • 作業、発注先を見込んだグループ化の機能が重要
    • 装置や設備、機種(仕様によるグループ化)
    • 検査ルート等の作業単位でのグループ化
    • 部、課、係等作業グループ単位でのグループ化
  • 設備、装置から部位・部品のレベルまで必要
    • 階層による管理が重要
    • システム等の機能によるグループ化が重要
    • 機種等の仕様によるグループ化が重要
予備品台帳
(部品台帳)
  • 設備との関連付け、保全 BOM (構成管理) が重要
    • 取替可能部品レベルでの管理
  • 設備との関連付け、保全 BOM (構成管理) が重要
    • 部品レベルでの故障管理を行う場合に工夫が必要
作業管理
イベント管理
作業を明細レベルで分離、集約する機能が必要性がある。付帯工事等、設備台帳に関連付けられない作業も発生する。 作業レコードと設備レコードの関係が明確。故障を設備のイベントとして記録する場合と作業と紐付けて記録する場合の2方式が考えられる。
コスト管理 勘定科目と対応付けられる。コストセンターを定義することで、予実管理が可能。設備を作業グループ単位でグループ化することで、暗黙にコストセンターを意識。 あくまで目安。実績コストの設備への関連付けは困難。

どうあるべきなのか

前節で述べた問題を解決するためには、保全管理システムを導入する時に、何を管理するかを明確にしておく必要があります。特に設備のメンテナンス履歴を管理したいのか、それとも、作業を管理したいのかは、最も重要な選択肢になります。

管理対象 台帳/他 留意点
作業管理 設備台帳
  • 設備台帳の粒度をどうするか
    • 部、課、係区分の基準
    • 機種の表記方法
    • 作業を実施する時、対象のグループ化をどう表現するか
    • 作業の明細をどこまで表現するか・設備台帳のデータと連携するかどうか
予備品 (部品) 台帳
  • 取替可能部品(交換単位)の予備品リスト、数量や購入先リストが必要。
作業 (イベント) 管理
  • 作業をどの単位で管理するか。件名もしくは明細レベルのどちらか
  • 設備を件名もしくは明細のどちらに関連付けるか
  • 一括管理が可能かどうか
    • 作業を発注単位、実施単位で分割できるか
    • 分割された作業を発注先、実施グループ毎に集約できるか
  • メンテナンス履歴をどのように見たいか
    • 何をキーにして参照するか
  • 業務フローを導入するかどうか
  • 長期計画をどの様に作成するか
    • 何をキーにして、計画を作成するか
  • 予備品管理は、どの様に作業に関わってくるか
コスト管理
  • 予実管理をどのレベルで実施するか
    • 勘定科目または部、課、係区分等の担当 (=費用区分) を付与するか。
履歴管理 設備台帳
  • 設備台帳の粒度をどうするか
    • メンテナンスの履歴を設備階層のどのレベルで管理するか
    • どのレベルで故障管理を行うか
    • 故障管理をどう集約するか
    • 機能 (システム) 単位 (系等) の管理を実施するか。
    • 部位・部品レベルをどの様に表現するか
予備品 (部品) 管理
  • メンテナンス履歴を残す対象として考える場合、部位・部品を表現できるかどうか
作業 (イベント) 管理
  • 作業履歴の意味づけをどうするか
  • 故障履歴を作業と関連付けて残すかどうか
  • 長期計画をどの様に作成するか
    • 何をキーにして、計画を作成するか
    • 予防保全、予知保全をどのレベルで表現するか
  • 設備担当を意識するか
  • 予備品交換記録をどの様に残すか
コスト管理
  • 予実管理を実施するかどうか

上記の要望を保全管理システムにて実現する場合、履歴管理と作業管理を同一の仕組みで考えると、何れの機能も実現することが困難になります。発注を伴う作業や作業グループを意識する場合、履歴管理とは、別の観点 (切り口) から作業のグループ化を行う必要があります。この様子を以下に示します。

履歴管理と作業管理を実施する中で、発注や作業グループを意識する場合、作業のグループ化機能が必要になります。保全管理システムには、作業を分割、集約できる機能や一括発注機能を持ったものもあります。上図では、作業のグループ化を積算機能として表現しています。もし、作業を分割、集約できる機能や一括発注機能を持たない場合でも、履歴の管理と作業の管理は、分けて検討し、足りない方を追加すべきと考えます。

保全管理システムの中には、購買機能を有するものも存在します。この場合、発注や見積依頼の仕組みとして、計画された作業の分割や集約、および一括発注の仕組みを有しているかを検討する必要があります。

システムとして何が必要か

前節までの説明の内容をまとめると、設備の履歴管理と作業管理を実施する場合、必要となる保全管理システムは、以下の機能を持つ必要があります。

  1. 設備階層を表現できる設備台帳。
  2. 設備に対するメンテナンス作業を蓄積できる機能(履歴を管理できる)。本機能は、作業管理の中で設備と作業を紐付けて管理することで実現できます。
  3. メンテナンス作業を発注や作業グループに割り当てるための作業分割や一括化機能。購買機能や積算機能(作業の分割と集約によるグループ化)を持つ保全管理システムも存在します。

情報の一元管理の観点から、項目2.の情報は、項目3.に包含されることが望ましく、日常保全や自社内で実施する作業は、項目2.の情報として単独で蓄積できる必要があります。

まとめ

設備のメンテナンス履歴管理と作業の発注管理は、同一情報の管理の様に見えますが、保全システムの中では、設備台帳、作業管理情報の粒度の違いとして現れます。この二つの情報は、保全管理システムの根幹を成す情報であるため、まず、最初に解決すべき問題です。